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しんれいさつじんじけん
心霊殺人事件
「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」1954(昭和29)年10月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,557 字 · 52 页
糸子の位置が殺して戻るに最も有利で、一同の後へ戻ればよいのだから、そしてその間に人の介在が皆無なのだから、彼女の場合戻り道でしくじる危険は全くなしと断じてよい。有力な容疑者だが、動機が稀薄だ。
茂手木も被害者への最短距離だから、往復の不自由は他に比較して甚だしく少い。岸井と二人だけで応接室にいた間に短剣を盗みとるチャンスも有り得たろう。彼は戦地に於て人殺しを常習にした怪物だから、あの好条件にめぐまれて仙七を一突きに刺し殺すのは久万ぶりの悦楽ぐらいにしか感じなかったかも知れないのである。動機はこれも稀薄だが、性格的に人殺し的なのだから、これは有力な容疑者である。
辰男は動機の上から最大の容疑者である。なるほど殺さなくとも自然に自分の物になる財産だということは一応筋が通っているが、正しい筋の裏側にはそれと同量の逆が含まれているのが当然である。殺さなければ財産を失う怖れというものは一ツや二ツの原因理由に限られているものではなくて無数の理由によって生じうることが可能なのだから、かえって一応筋が通っているだけ言い訳にならないと云えるのである。
ただそのような怖れの生じる理由が実在したかということが問題だ。