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しんれいさつじんじけん

心霊殺人事件

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一四号(創作二十二人集)」1954(昭和29)年10月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,557 字 · 52 页

青空文庫

辰男も糸子も同様後列であるから糸子についで、往復に危険の少い位置である。とにかく後列は前列よりも甚だしく有利で、おまけに後列は二人だけで隣りがないのだからなおさらだ。最短距離の茂手木よりも辰男の方が往復に有利と見てよい。辰男の位置の場合、遠距離ということは苦にならないのである。暗幕に沿って歩けばよいのだ。

こうしてみると、動機の上でも位置からでも辰男が最有力の容疑であるが、糸子の嘲りに対してジダンダふみ駈けまわって必死にこらえていたあの有様はどう解釈すべきだろうか。再び人殺しを犯す苦を必死にこらえていたのか。

むしろあのジダンダはとうてい殺人のできない弱気な小心な性格を現しているのではなかろうか。九太夫はあのジダンダになんとなく好意をいだいているのだ。この結論はだせなかった。

さて、その翌朝だ。オハヨー、奇術師サンと云って糸子がやってきた。

「ゆうべはウンザリして逃げたんですか」

「イエ、とんでもない。むしろあなたの一族にはじめて好意をもったのですよ。あなた方四人の兄妹にね」

糸子は素直にうなずいた。

「私もオジサンが好きになったわ。以心伝心ね。タデ食う虫も好き好きかな。