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ちゅうぼく

忠僕

池谷 信三郎

在线阅读池谷 信三郎《忠僕(ちゅうぼく)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,898 字 · 6 页

青空文庫

2

久助はもう五十に手がとどく、先代からの雇人だった。

2

先代の在世中には殆んど縁切り同様だった先代の弟、今の嘉吉には叔父に当る男が、この頃はちょくちょくと、沼津から顔を出した。その度に久助は苦い顔をした。

その男は、来るときまって、嘉吉さんや、と甘ったるい声を出しては、幾ばくの金を借りて行った。今度沼津へ草競馬を始めようかと思ってな、そりゃお前、ど偉い儲けだ。それでその少しばかり、運動の資金が要るんじゃが、どうだろう、え? と云われると、嘉吉はいつものように人の好い顔を崩して、そりゃ良さそうですな。そして三島の銀行の小切手を書いてやるのだった。

叔父は沼津の芸者を落籍いて、又三月程経った、乗合に乗ってぽかぽかと、この山の宿へやって来た。

ブリキの鑵へ印刷する工場を作りたいのじゃがどうだろう、え? 嘉吉さん、……

主人と沼津の男の会話が、開け放たれた二階の窓から洩れて来る。と、久助は忌々しそうに舌打ちをしては、釣竿をかついで川へ出た。

この土地は低い山の懐に抱かれていた。その底を、石の多い谷の河原に、綺麗な水が瀬をなして流れていた。久助は片手にひっかけ鉤をつけた釣竿を持ち、片手に覗眼鏡を動かしては、急湍をすかせながら腰まで浸かして川を渉った。