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あやしのもの
怪しの者
国枝 史郎
「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页
でも露路には枝道が多く、こみいっておりましたので、わたしがどこへかくれたか、西条様にはわからなかったようです。
その西条様がぼんやりした様子で、一軒の家の前に佇んだのは、それから間もなくのことでした。
平家だての格子づくりの、粋な真新しい家の前でした。
と、格子戸の奥の障子が、土間をへだてて明るみ、やがて障子が開き行燈をさげた仇っぽい女が、しどけない姿をあらわしました。睫毛の濃い大型の眼、中だるみのない高い鼻、口はといえばこれも大型でしたが、受け口めいておりましたので、色気にかけては充分でした。空いている左手を鬢へ持って行き、女のくせで、こぼれている毛筋を、掻きあげるようにいたしましたが、八口や袖口から、紅色がチラチラこぼれて、男の心持を、迷わせるようなところがありました。及び腰をして格子戸の方を隙かし、
「どなた、宅にご用?」
と、含みのある水っぽい声で言ったものです。
「いや」
と西条さんは狼狽したような声で、
「狼藉者が入り込んだのでな」
「狼藉者? 気味の悪い……どのような様子の狼藉者で?」
「乞食じゃよ、穢ない乞食じゃ」
「お菰さん、おやおや……お菰さんでございましたら、もうこの辺へは、毎日のように、いくらでも立ち廻るのでございますよ」