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あやしのもの

怪しの者

国枝 史郎

「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,259 字 · 25 页

青空文庫

「それが怪しからん乞食でな」

「旦那様に失礼でもなさいましたので?」

「うむ、まあ、そういったことになる」

「息づかいがお荒うございますのね。お水でも……」

「水か、いや、それには及ばぬ」

「ではお茶でも、ホ、ホ」

その女は、プリプリしているお侍さんを、からかってやろうというような様子を、見せはじめましてございます。

「戸じまりなど充分気をつけるがよいぞ」

西条様はテレかくしのように言って、歩き出されました。

女は持田様の女中お柳でございました。そうしてそのお柳は少したったのちには、この家の奥の茶の間にすわって、丹前を着た三十五、六の、眼の鋭い、口元の締まった武士と、砕けた様子で話していました。長火鉢の横には塗り膳があって、それには小鉢物がのせてあり、燗徳利などものせてあるという始末で。お柳がその男を旗さんと呼んだり、頼母さんと呼んだりするところを見ると、それがその男の姓名であり、二人の間柄は、情夫情婦のようでありました。

そうして、その旗頼母という武士こそ、勢州と呼ばれているこの乞食の私なのでございます。どうして武士の私が乞食などになっているかと申しますに、ある重大な計画の秘密を探るためなので。