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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

贅沢出来るのも今のうちだ、それ酒を飲め女を買えと、町人達まで自暴自棄となって悪事三昧に耽けるようになった。切り取り強盗、闇討ち放火、至る所に行なわれ巷の辻々には切り仆された武士の屍が横たわっていたりまた武家屋敷の窓や塀には斬奸状が張られてあったり、二百万人を包容していた幕府所在地の大きな都には平和の影さえも見られなくなった。麟太郎は軍事取り扱かいという重大の役目を持っていたが強硬なる非戦論の主謀者として逸り立つ旗本八万騎を鎮撫しなければならなかった。彼は官軍に内通している獅子身中の虫と見られ、ある夜のごときは数十人の兵にその身辺を取りまかれ鉄砲の筒口を一斉に向けられ硝煙に包まれたことさえあった。

「慶喜の生命は助けなければならない。江戸を兵燹から守らなければならない。好い策はないか。よい策はないか」と、寧日のない騒忙の裏にこの事ばかりを考えた。

「西郷に会おう。西郷は知己だ。会って赤誠を披瀝しよう」これが終局の決心であった。こう決心はしたものの心にはかなりの不安があった。多智大胆権謀無双、隼のような彼ではあったが、西郷との会見は重荷であった。

当日になると式服を纒い馬上に鞭を携えて薩州の邸へ歩ませた。