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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

すると西郷は膝へ手を置き黙って終いまで聴いていたが、

『いろいろ議論もございましょうが私が一身にかけましてお引き受けすることに致しましょう』と卒直に一言云ったものだ。これで会見はお終いだ。そして慶喜公のお命と江戸の命とが保証されたのさ」

爾来、麟太郎の生活は、やっぱり危険で困難であった。がしかしそのつど大勇猛心と海のように広い度量とで易々と荒濤を凌いで行った。彼はいつでも平和であった。晩年になるといよいよ益益彼の襟懐は穏かになった。参議兼海軍卿。こんなに高い栄誉の位置に一度は登ったこともある。従二位勲一等伯爵という、顕爵さえも授けられた。とはいえ天性洒落の彼は誇りも驕ぶりもしなかった。いつも門戸を開放し来るに任せて談笑した。官吏も来れば相場師も来る。力士も来れば茶屋の女将も来る。

それはある日のことであったが、八百善の女将が機嫌伺いに彼の屋敷を訪ずれた時、突然彼はこんなことを訊いた。

「女で、鼓の名人で、永生きをした者はなかったかえ? ……天保の時分にもう老人で明治の初年まで生きていた……」

「さあ」と女将は不思議そうに彼の顔色を窺いながらしばらくじっと考えていたが、