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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

散り初めた山桜が、時々渡る微風に連れて、駕籠の上へも人の肩へも降って来た。

「やむを得ない」

と武士は云った。

「舅殿がお待ちかねではあろうが、そう耳が痛んでは、無理強いに行くもなるまい。……今夜一晩猿ヶ京の温泉宿で泊まることにしよう」

「そうしていただきますれば……そこで一晩手あてしましたら、……明日はもう大丈夫」

と女は云って、遙かの谿川の下流、山の中腹のあたりに、懸け作りのようになって建ててある温泉宿、桔梗屋の方を見た。

「聞いたか」

と武士は、駕籠の横の草の上へ腰をおろし、※(「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2-13-28)み箱を膝の上へのせている、忠実らしい老僕へ云った。

「今夜はここの温泉宿へ泊まるのじゃ。そちも皺のばしが出来るぞ」

「有難いことで」

と僕は云った。

「越後の長岡から三国を越しての旅、おいぼれの私には難渋でございましたが、一晩でも湯治が出来ましたら元気が出ることでございましょう」

猿ヶ京と云われているだけにこの辺には猿が多く、それが木の枝や藪の蔭などから、この人たちを眺めていた。丘をへだてた竹叢のほとりから、老鶯の啼き音が聞こえて来た。