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あやしのやかた
怪しの館 短編
国枝 史郎
国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页
と、絹商人は、話のつづきを話し出した。
「そのことがあってからというもの、そのお侍さんは、生活の途を失い……そりゃアそうでしょうよ、片耳ないような人間を、誰だって使う者はおりませんからねえ。……ウロウロと諸地方を彷徨いましたそうで。……木曽街道を彷徨っていた時のことだといいますが、板橋宿外れの葉茶屋へ寄って、昼食をしたためたそうで。すると側に、二十一、二ぐらいの仇めいた道中姿の女がいて、これも飯を食べていたそうで。いざお勘定となると、百文の勘定に、何んと女は小判を出して、これで取ってくれといったそうで。ところが、そんな葉茶屋ですから釣銭がない。それで女にそういうと、女は当惑したような顔をしいしい、妾にも小銭はないと云い、ヒョイとそのお侍さんの方へ向き、
『申し兼ねますがお立て替えを』
『よろしゅうござる』
とお侍さんは何んと感心にも、乏しい懐中の中から金を立て替えてやり、それを縁に連れ立って歩き、日の暮れに上尾宿まで参りましたところ、女の姿が見えなくなったそうで。
『はぐれた筈もないが』
と不思議に思いながらその宿の安宿へ泊まり、翌朝発足して熊谷宿まで行くと、棒端の葉茶屋にその女がいたそうで。