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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

「あッ」

と松乃は起き上がった。

「三国峠の権が?」

「はい。……破牢したばかりか、……奥様、旦那様、決してお驚きなさいますな、……それに致しても何んと申してよいやら……その権という泥棒、奥様の実家、五百枝様のお屋敷へ忍び入り、将左衛門様の片耳を切り取り……」

「あッ」

と松乃は立ち上がった。

「お父様の片耳を! ……権が!」

「はい。……そうしてここへ、この猿ヶ京へ逃げ込みましたそうで。……それで沼田様からお捕り方が出……」

「権! 権之介よ! ……無理はない、さあ妾の耳も切っておくれ! ……みんな妾が悪かったからじゃ! ……切って怨みを晴らしておくれ! ……おお痛む! 痛む痛む耳! いっそ切られた方が! ……あげまする、この耳あげまする! 権よ権よ切っておくれ! ……昨夜から痛む訳じゃ! お父様がお切られなされたのじゃもの! ……同じ時刻から痛み出した耳! ……親の苦痛が娘へ伝わったのじゃ! ……それもこれも権の怨み! ……権よ、さあこの耳を切っておくれ!」

松乃は廊下へ走り出た。

救われた命、助かった心

これより少し以前のことであるが、桔梗屋の主人佐五衛門は、行燈を提げ、帳場の辺をウロウロしていた。