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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

「だから見事だと申している。ただし少しく砂子が淡い」

「決して淡くはござりませぬ」

「余の眼からは淡く見ゆるぞ」

「はばかりながらそのお言葉は素人評かと存ぜられまする」

融川は構わずこういい切り横を向いて笑ったものである。

「いかにも余は絵師ではない。しかしそもそも絵と申すものは、絵師が描いて絵師が観る、そういうものではないと思うぞ。絵は万人の観るべきものじゃ。万人の鑑識に適ってこそ天下の名画と申すことが出来る。――この八景砂子が淡い。持ち返って手を入れたらどうじゃな」

満座の前で云い出した以上豊後守も引っ込むことは出来ない。是が非でも押し付けて一旦は自説を貫かねば老中の貫目にも係わるというもの、もっとも先祖忠秋以来ちと頑固に出来てもいたので、他人なら笑って済ますところも、肩肘張って押し通すという野暮な嫌いもなくはなかった。

狩野融川に至っては融通の利かぬ骨頂で、今も昔も変わりのない芸術家気質というやつであった。これが同時代の文晁ででもあったら洒落の一つも飛ばせて置いてサッサと屏風を引っ込ませ、気が向いたら砂子も蒔こう厭なら蒔いたような顔をして、数日経ってから何食わぬ態でまた持ち込むに違いない。