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あやしのやかた

怪しの館 短編

国枝 史郎

国枝史郎『怪しの館 短編』。同一底本的分册已合并为一书。收入:怪しの館、一枚絵の女、犬神娘、開運の鼓、猿ヶ京片耳伝説、日置流系図、北斎と幽霊。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,915 字 · 165 页

青空文庫

に描かれて、やはり一枚絵として売り出され、諸人讃美のまとになっている、難波屋おきたと駈け落ちをする。

もうすっかり満足していた。

おきたも満足しているのであった。

尋常の人とは夫婦になれない、そういう身分の自分であった。それが微禄とはいいながら、徳川直参の若い武士と、夫婦になることが出来るのである。

(茶汲み女として囃されても、そんな人気はひとしきり、妾の素性が知れようものなら、あべこべに爪はじきされるだろう。それより好きな人と他国へ落ちて、安穏に一緒にくらした方が……)

どんなによいかと思われるのであった。

宿を出外れると松並木で、人通りなどはほとんどなく、夜啼き蝉の滲み入るような声が、半かけの月の光の中で、短い命を啼いていた。

その時背後から足音がした。

あたりに気を置く落人であった。そっとおきたは振り返って見た。

網代の笠を傾けて、おきたを見つめながら例の新発意がすぐの背後を歩いて来ていた。

「あ」

おきたは三十郎へ縋った。

「あの坊主を殺して……そうでなければ……妾は……お前とは……添われぬ! ……添われぬ! ……」

抜き打ちにしようと三十郎は、刀の柄へ手をかけた。