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おそろしきさくご
恐ろしき錯誤
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1923(大正12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,075 字 · 46 页
純粋に心理的なものだった。つまり、そこには二重の困難が横わっていたのだった。
幾日となく、そればかりを考えている内に、北川氏の頭に、ふとすばらしい名案が浮んだ。それは法律に訴えることでは無論なかった。だといって、暴力を以て私刑を行うのでもなかった。それは、復讐者は絶対に安全で、しかも、相手には、政府の牢獄や、そんな私刑の苦痛にもまして、深い、強い打撃を与え得る様な方法だった。そればかりでなく、もっといい事には、その方法による時は、態々真犯人を見出す面倒のないことだった。嫌疑者の凡てに、それを実行しさえすればよいのだった。
真の犯罪者には此の上もない苦痛を与えるけれども、他の者は何等の痛痒も感じない方法だった。
妙子が残して行った金メダルと、学生時代に、同じクラスの者が集って写した四つ切りの写真とが、その材料だった。
北川氏は先ずその金メダルと同じものを二つ作らせた。そして、都合三つの、寸分違わないメダルが揃うと、今度はその中へ、夫々、野本氏、井上氏、松村氏の写真を、顔の所だけ切り抜いて貼りつけた。
何という簡単な準備だ。これであの重大な仇討が出来ようとは。