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きょうふのくちぶえ

恐怖の口笛

海野 十三

「富士」1934(昭和9)年8月号~11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,713 字 · 122 页

青空文庫

「やっぱりそうだ!」

と、大江山課長はその場へ飛びこむなり叫んだ。

「覆面探偵の青竜王は、やはり痣蟹だったのだ」と倒れている痣蟹仙斎の服装を指しながら「どうですか検事さん。覆面探偵が怪しいと申上げておいたことも、無駄ではなかったですネ」

「いいや、やっぱり無駄かも知れない。これは痣蟹の屍体とは認めるけれど、青竜王の屍体と認めるのにはまだ早い。……君のために作られたような舞台だといったのは、実はこれなのだ。つまり青竜王の覆面を取れば痣蟹であるという誤が起るように用意されてある。……」

「では検事さんは、これを見ても、痣蟹が青竜王に化けていたとは信じないのですか」

「それはもちろん信じる。しかし真の青竜王が痣蟹だったということとは別の問題だ」

といった検事は、痣蟹を青竜王とは信じない面持だった。

「大江山君、その問題は後まわしとして、この痣蟹は、明らかに吸血鬼にやられているようだが、君はどう思うネ」

「ええ、確かに吸血鬼です。この抉りとられたような頸もとの傷、それから紫斑が非常に薄いことからみても、恐ろしい吸血鬼の仕業に違いありません」

「すると、痣蟹が吸血鬼だという君のいつかの断定は撤回するのだネ」