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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

と言ってから、

「あいつあ馬鹿だ、あんな奴はどうだって好いじゃありませんか」と、慰めるように言った。

「馬鹿だって、向うがえらけりゃ仕方がないよ。僕あこんな下らない月給取りはほんとにいやになった。今度東京へ帰って、甘く行かなかったら坑夫になろう、その時は君頼むぜ」

「馬鹿な、お前さんなんか坑夫にならなくったって好いじゃありませんか」と萩野は取り合わなかった。

「まったくだよ。坑夫の方がよっぽど好いよ、八時間黙って石さえはたいていりゃあ好いんじゃないか。お世辞を言うこともなきゃ、何にもありゃしない。働いた丈け取って食って、いやになったら浪人して歩きゃ好いんだ。どんなに呑気だか知れやしない。今までにだって、随分働いた身体だもの、身体で稼ぐのは平気だから」

「全く何をしたって同じこったね、俺も嫌えな奴にお辞儀するなあ一番いやだ」と言ってから、

「だけどお前さんが坑夫になったら、随分理窟を言ったり、暴れたりするでしょう」と言って笑った。

「そう言や、此頃あ余り鬼踊りをやりませんね」と三田が傍から言ったので、池田も萩野もふき出した。この山に池田がはじめて来た頃には、月に二三度はきっと誰かと殴り合いの喧嘩をした。