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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

けれども直ぐに帰って来て、

「噂ほどのものはありゃしない。のうちなんて、てんで見えやしねえ」と萩野は、濡れた草履を叢にバタバタさせながら言った。

坑内で水の音がジャブジャブと激しくしたと思うと、先きの男が二人揃ってまた出て来たが、今度は土は担いでいなかった。

前に立った男は天秤をしっかりと持って、萩野の前に突っ立って、

「お前さん方は何処から来なすった」と詰るように訊ねた。

「おら隣りの山から来たのよ」と萩野は落ちついて答えた。

「隣り山といや、お前さんも坑夫だろ」と、今度はややかさにかかるようになって云った。

「坑夫よ、俺、高田の萩野ってえもんだ」

萩野の肩はもう少し怒っていた。

「坑夫がお前、よその坑内へ挨拶もなしに入えるって法があるか」

「挨拶も何も、お前達や中に入っていたじゃねえか、へえっていけなきゃいけねえて言うが好いんだ」

萩野は拳を振わせてジリジリ進み寄った。

相手は四十に近い頑丈な身体をした男であった。頬髯をモジャモジャと生やしてはいたが、何処か人の好さ相な顔をしていた。

「おれの言うことが解らねえのか、坑夫の癖によその坑内へ黙って入るって作法があるかって言うんだ」