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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
夏の夕日が西の空に燃えて、夕靄が谷間や山蔭の村の上に漂って、青葉に包まれた小山の頂きが、浮ぶように見えているのは、全く平和な姿らしくも眺められた。けれども彼は、その狭苦しい山村で、単調な生活をしている人々のことを思わずにはいられなかった。
若葉の萌える春のころだった。午休みの時に、彼がこの頂きに登って来たとき、鍛冶屋をしている竹という若い男が、後からついて登って来た。その男は少し馬鹿のようではあったが、正直で優しい気質を有っていた。池田が頂きの三角点の石に腰を下している傍に立って、
「東京はどっちの方でやすべえ」と訊いた。
はるかに遠く、水戸の海が霞の奥にどんよりと光っていた。
「あすこが水戸だから、もっと此方の方だろう」と池田は右の方を指した。竹は、
「俺も東京さ行って暮してえな」と嘆くように言った。
東京に行けば、面白い生活が出来ると思っているこの男は、まだ幸福だと思った。池田はこの山に登ると、何時も竹の言ったことを思い出した。自分なんかは何処へ行くアテもなく、唯この山で、不愉快な生活の中に、僅かな安逸を貪っているのだと思うと、限りなく退屈になって来た。