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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
「あんまり無茶をして、身体をおやしちまっちゃいけないぞ」と、沼田が気遣わし相に言うと、
「丈夫で暮してりゃ何うなるんだい」と反抗的に言うこともあった。その癖彼は、冷水摩擦をやったり、山の上で深呼吸をやったりしていた。それはただ、ヨボヨボして死にたくないと思っていたからであった。
七月の末であった。池田は山に宿直をして、夕暮に、湯を使っていると、一の番から上った坑夫や掘子が、揃いの浴衣や袢天を着て、ゾロゾロと見張りの前を通って行った。
「オイ、何処へ行くんだ」と風呂の中から彼は尋ねた。
「塩子の山の直り祝いだって弁天様のお祭りがあるってから、行って娘子でも押し廻してやるべえと思って」と小林と言う掘子が笑いながら言った。
「山の直り祝いに弁天様のお祭りか」と池田が笑うと、
「なんで鉱石なんかてんで出やしねえんでやんすよ。奴等箪笥の金掘りだってから、こんな騒ぎでもやって、金でも出させるんでやすべえ」と言ってから、
「何でもいいや、早く行って押し廻すべえ」と大きな声で笑いながら、村境いの峰の方へ登って行った。白地や紺の袢天が、青葉の中に見えかくれして、やがてみんな峰を越した。