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うらみなきさつじん

恨なき殺人

宮島 資夫

「新日本」1917(大正6)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页

青空文庫

「どうして喧嘩をしたんだ」

「なに、あっしが祭りを見ている中から、あの宿屋の伜が人を引っ張って来ちゃ喧嘩を吹っかけるんです。うるせえから帰ろうと思って森んとこまで来ると、高田の坑夫を一人も帰すなあっと誰か怒鳴ったと思うと、あっしの周りをグルッと取り巻いて、寅の奴が一番先きに飛び出して来たんです」

「その時お前は短刀を抜いたろ」

「寅は匕首を抜いて切りかけて来たんですが、あっしは短刀がないから、煙管を出してこうやって――」と三田は煙管を逆手に持って、身構えをして見せた。

「フン、それで」

刑事が合槌を打った。

「すると寅が、アッと言って倒れたと思うと、周りにいた奴等が逃げ出したから、私も急いで逃げて来ちまったんで、ええ」と、三田は独りでうなずいた。

「そうか」と調べていた男も点頭いたが、

「お前は喧嘩するつもりで出掛けたんじゃないのか」とまた訊ねた。

「かかあの腹がでけえのに、喧嘩どこの騒ぎじゃありませんや、気晴らしに祭りを見に行ったら、宿屋の伜が音頭を取ってやった事でさ、畜生っ」と三田は口を尖らした。

「然しお前は、誰が寅を殺したんだか知っているだろう」

「寅が死んだっていうのは、明る朝聞いたこってさ、誰が切ったか知るもんですか」