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うらみなきさつじん
恨なき殺人
宮島 資夫
「新日本」1917(大正6)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,611 字 · 56 页
卑怯な奴にはそんなことの解りようはないと思うと、早く千島に行きたいと思った。
沼田は酒を飲まなかった。けれども、宿直の晩などに、池田が酒を飲んでいると、
「一つ聞かしてやるか」と、二上りなんかをよく謳った。錆のある通った声が、人気のない夜の山に静かに響いた。
時には池田があまり遊び過ぎると、
「お前、鋳掛の松が海坊主の清吉に、人間は余り女ばかりこさえていると、根性骨が腐っちまうって、言ったことを知ってるか」と、砕けて意見をすることもあった。池田よりは二月ほどもおくれて、沼田が来てからの日を思うと、ただ二人丈けで暮して来たように思われる。沼田を置いて自分だけ出て行くと言うことは、池田の心を苦しめた。
林の外れに出ると、四辺はまた明るくなった。草原にはまだ温いいきれが残って、ほてった土が、黙って歩いて行く足元に軽く立ち上った。
「あんな馬鹿につつかれて出て行くな、下らないこったな」と沼田は思い出したように言った。
「下らないことだよ。然しあんな馬鹿はなぐりでもしなけりゃ此方の気持が解らないんだからな、なぐりゃ止さなきゃならないし、詰らない話さ」
二人はそれきり黙ってしまった。