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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

「こんな商売を初めてから、どれくらいになるんだい。」

「まだやっと二月よ。」

「嘘だろう。十四というのは本当かも知れないが、二月というのは嘘だ。」

「いいえ、本当よ。」

十四歳というのに、多少興味を覚え出して、いろいろへまなことを尋ねかけてきた私は、そこで妙に気持がはぐれて、そのまま口を噤んでしまった。彼女も黙っていた。暫くすると、彼女はわざと子供子供した甘ったれた調子で云い出した。

「私お腹が空いちゃったから、何か食べさして下さらないこと?」

「そんなら鮨でも取ったらいいだろう。ついでにお酒を一本添えて貰うといいな。」

彼女は立上りかけたが、俄にまた腰を下した。

「あなた、今晩泊っていっていいんでしょう。」

「いけないよ。」

「なぜ?」

「帰らなけりゃならない。」

「そんなら、一時間……」と云いかけて彼女は一寸考え込んで、「二時間ばかりにしとくわ。ね、いいでしょう。」

私がぼんやり見返した眼に、彼女は一寸笑みを含んだ眼付を投げつけておいて、大儀そうに階段を下りていった。

私は一人つくねんと、二十分ばかりも――或はもっと短かかったかも知れないが――空の餉台と一緒に待たせられた。