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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

仰向けに寝転んで、煙草を吹かしながら、煤けた天井の、雨漏りの跡らしい汚点を見つめてるうちに、もうそのまま永久に身を動かしたくないような気持へ、底深く沈み込んでいった。何のためにこんな家へやって来たのか? もう先程の情慾も消え失せてしまって、都会の一隅の見馴れない室に、ぽつりと投り出された自分自身だった。やがて彼女が鮨の皿と銚子と豌豆豆の小皿とを運んできても、私はやはり寝そべったまま身を起そうともしなかった。酒が冷えてしまうと再三促されてから、漸く上半身を起した。

「怒ったの?」

私は返辞をしなかった。

「どうしたのよ、黙りこくってて。何か怒ったの?」

「あんなに待たせられてさ、腹も立とうじゃないか。」

「ほんとに御免なさい。お誂えのものがなかなか来なかったんですもの。」

そして私が杯を取上げると、彼女はそのお誂えの鮨をむしゃむしゃ食べ初めた。

「あら、まだ怒ってるのね、こんなに謝ってるのに。」

「謝り方が足りないよ。」

心にもないすね方をしてはみたものの、実はそんな所に気持がこだわってるのではなかった。じっとしてるのが堪らなくなった。

「ねえ、君は、僕が一緒に連れて逃げると云ったら、ついてくるかい。