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あくむ
悪夢
豊島 与志雄
「改造」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页
酒も飲みたかったし、買いたい書物もあったし、其他いろんな欲望があったが、そのうちのどれを満してやろうかと――さすがに楽しい心地で考え初めた所が、その楽しい心地が一寸向を変えて、自分の心にはっきり映ってきて、自分で自分が惨めになさけなくなり、これだけが一ヶ月の労苦の報酬かと考え、その報酬にうわずった喜びをしてる自分かと考えて、それから自分の日々を眼の前に思い浮べて、堪らなく陰鬱なまた苛立たしい気持になっていった。幸福でも不吉でもいいから、力一杯胸一杯のものがほしかった。余儀なく引きずられてゆくような息苦しい生活は、思っても堪らなかった。そして私は、もう外に出る気もなくなって、その楽しかるべき日曜を、薄暗い三畳の室に寝転んで、疲憊しきった惨めな焦慮のうちに、午後の三時頃まで過してしまった。その時、国許の兄から手紙が来た。「親展」と大書してあった。何事だろう? と咄嗟に考えたが、次の瞬間には、兄はどんな手紙にも必ず「親展」と書き誌す癖があることを思い出して、何だかはぐらかされたような気持になり、別に急ぐでもなくまた急がぬでもなく、封を切って読んでみた。