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あくむ

悪夢

豊島 与志雄

「改造」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,930 字 · 32 页

青空文庫

よほど暑気に相向い候処其許様にも相変らず御無事のことと存上候内方一同元気に御座候間御安心下され度父上も例の通り御達者にていつも野良に出て若者も及ばぬほど働き居られ候健作も日ましに大きくなり此頃にては外の仕事にも連れ行き居り候川の土堤などにてわるさをして困り妻女はその方に気を取られて碌に仕事に手もつかぬほどの次第に有之候晩にはいつも其許様のうわさを皆して申居候此節少しも御便りなく父上始め皆々心配につき御様子御知らせ下され度候これより追々暑くなること故水あたり食あたりなどされぬよう呉々も御用心のほど願上候庄兵衛方の女馬に子供生れて村中の者珍らしがり居り候内の馬も至極壮健にて夕方河原などを駆けさせるは面白きものに御座候万事用心第一に御成功のほど祈上候

先の切れた筆で太く書きしるされてる兄の手紙を見ながら、私は遠い夢をでも思い起すような気で、故郷の自然を思い出した。円い石が一面に並んでる清らかな河原、青々とした広い田畑、眼の届く限り大きく拡がってる青空、空に去来する雲……その雲を見るのが私は一番好きだった。雲を見てどうするのか? と母は幼い私に向って度々云ったものだった……。