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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

それから、被害者の実兄と女中と僕とは、型通りの訊問を受けたが、僕の判断する限りでは、検事はこれという捜査上の材料を掴むことは出来なかった。被害者の姉崎曽恵子さんは、一種の社交家ではあったけれど、非常にしとやかな寧ろ内気な、そして古風な道徳家で、若い未亡人に立ち易い噂なども全く聞かなかったし、まして人に恨みを受ける様な人柄では決してなかった。検事の疑深い訊問に対して、彼女の兄さんと女中とは、繰返しこの事を確言した。結局、姉崎家屋内での捜査は、右に図解した奇妙な一枚の紙切れの外には、全く得る所がなかったのだ。そこで、問題は女中が使に出てから帰宅したまでの、つまり被害者が一人ぼっちで家にいた時間、午後一時頃から四時半頃までに、姉崎家に出入りした人物を、外部から探し出すことが出来るかどうかの一点に押し縮められた。これが検事達の最後の頼みの綱であった。

局面がそこまで来た時、僕は当然ある人物を思出さなければならなかった。云うまでもなく、この手紙の初めに書いた躄乞食のことだ。あいつに若し多少でも視力があったならば、そして、今日の午後ずっと同じ空地にいたのだとすれば、あの空地は丁度姉崎家の門の斜向に当るのだから、そこを出入りした人物を目撃しているに違いない。