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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

僕は外に達者な相棒がいて、躄は見張り役を勤めたのではないかと空想したのですが、それも非常に不自然です。そんな乞食などがどうして蔵の合鍵を拵えることが出来たかということ、犯人が乞食とすれば、何か盗んで行かなかった筈はないということ、躄が何の必要があって危険な現場附近にいつまでもぐずぐずしていたかと云う事などを考えると、この空想は全く成立たないのです」

「それじゃ、この符号は躄車やなんかじゃないのですわね」

奥さんはあきらめ切れない様な顔であった。実を云うと僕自身も、これという理由がある訳ではなかったけれど、躄車説には妙に心を惹かれていた。

三人の犯罪談はそれ以上発展しなかった。先生は煙草をふかしながら何か考え込んでいられるし、奥さんはポツリポツリ姉崎さんの思出話の様なことをお話なすったが、それも途切れ勝ちで、何となく座が白けている所へ、もう時間と見えて次々と会員がやって来た。

一番早く来たのは園田文学士で、この人は僕よりは一年先輩なのだが、卒業以来ずっと黒川先生の研究室にいて、先生の助手の様にして実験心理学に没頭している、度の強い近眼鏡をかけて、いつでもネクタイが曲っている様な、如何にも学者くさい男だ。