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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

ところで、祖父江君、君は、死体解剖の、結果を、聞かなかったかね」

「綿貫検事から聞きました。内臓には別状なかった相です。姉崎さんはあの日十時頃に、遅い朝食を採られた切りだそうですが、胃袋は空っぽで、腸内の消化の程度では、絶命されたのは、一時から二時半頃までの間ではないか、という程度の、やっぱり漠然としたことしか分らなかった相です」

「精虫は?」

「それは、全く発見出来なかったというのです」

「ホホウ、それは、どうも」

この対話によって、熊浦氏が何を考えていたかが、君にも想像出来るだろう。同氏は僕の明確な否定に、ある失望を感じたに違いないのだ。ここに至って、僕はこの変物の妖怪学者に一種の好意を感じないではいられなかった。彼も亦僕等と同じミステリィ・ハンタァズの一人であったのだ。日頃陰鬱で黙り屋の同氏が、この夜に限って、かくも雄弁であったのは、全く犯罪への好奇心に由来していたのだ。僕はここに一人のよき話し相手を得たことを、私かに喜ばしく感じた。

「ホホ……、まるで刑事部屋みたいね。それともファイロ・ヴァンスの事務所ですか」

突然美しい声が聞えたので、振向くと、ドアの前に二人の少女が手をつないで立っていた。