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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

前月までの例会には、それに姉崎未亡人が加わって、女性会員は三人であったのだが。

「龍ちゃん、今夜気分はどう?」

黒川夫人が、いたわる様に盲目の少女に呼びかけなすった。

「分らないわ」

龍ちゃんは十歳の少女の様にあどけなく、ニヤニヤと笑って、空中に答えた。

「いいらしいのよ。さっきから御機嫌なんですもの」

鞠子さんが側からつけ加えた。この娘さんはお父さんには勿論、継しいお母さんにでも、まるでお友達の様な口を利くのだ。

「では、あちらの部屋へ行きましょう」

黒川先生は立上って、先に立って書斎のドアをお開きなすった。一同は、そのあとから足音を盗む様にして、もう緊張した気持になりながら、実験場の設備をした先生の書斎へ入って行った。だが、それから間もなく、霊媒の口からあんな恐ろしい言葉を聞こうとは、そして、会員の一人残らずが、まるで金縛りの様な身動きもならぬ窮地に陥ろうとは、誰が想像し得ただろう。

君は恐らく降霊会というものに出席した経験がないであろうが、それは一般に軽蔑されている程つまらないものではない。暗闇の中で、幾人かの人間が死の様に静まり返って、どこからともなく聞えて来る幽冥界の声を聞く時、或は朦朧と現われ来るエクト・プラスムのこの世のものならぬ放射光を目にする時、人は名状し難き歓喜を味うのだ。