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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

だが、それを我慢している内に、声が段々意味を持ち始める。異様に低い嗄声ではあるけれど、充分聞分けられる程度になる。

「わたし、いそいで、お知らせしなければならないのです」

暗闇の中に、ゆっくりゆっくりと、全く聞覚えのない、低い無表情な声が、まるで井戸の底からででもある様に、不思議な反響を伴って響いて来る。

「織江さんですか」

黒川先生の落ちついたお声が聞える。

「そうです。わたし、執念深い魂の悪だくみをお知らせしたいのです。……その魂が、一所懸命にわたしの口を押えようとして、もがいているのですけれど、わたしはそれを押しのけて、お知らせするのです」

言葉がとぎれると、暗闇と静寂とが、一層圧迫的に感じられる。誰も物を云わなかった。何かしら恐ろしい予感に脅かされて、手を握りしめる様にして、おし黙っていた。

「一人美しい人が死にました。そして、又一人美しい人が死ぬのです」

ギョッとする様なことを、少しも抑揚のない無表情な声が云った。

「あなたは、姉崎曽恵子さんのことを云っているのですか。そして、もう一人の美しい人というのは誰です」

黒川先生が、惶しく聞返された。