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あくりょう

悪霊

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页

青空文庫

滑稽な程ぶッきらぼうで、冷酷な調子だ。

「同じ人? 同じ人とは、一体、誰のことだ。あんたは、それを、知っているのか」

熊浦氏がいつの間にか、黒川先生に代って、聞き役になっていた。彼のは魂の声を導き出すというよりは、まるで裁判官の訊問みたいな口調であった。

「知っています。その人も、今私の前にいるのです」

「この部屋にいると、云うのですか。我々の中に、その、下手人が、いるとでも、云うのですか」

「ハイ、そうです。殺す人も、殺される人も」

「誰です、誰です、それは」

そこでパッタリと問答が途絶えた。「織江さん」はこの大切な質問には、急に答えることが出来なかった。問う方でも、それ以上せき立てるのが躊躇された。魂は七人の会員の内の誰かが殺されると云うのだ。しかも、その下手人も会員の一人だと明言しているのだ。

それから、あの恐ろしい出来事が起るまで、ほんの数十秒の間が、どんなに長く感じられたことだろう。じっと息を殺していると、余りの静けさに、僕はその広い闇の中に、たった一人取残されている様な、妙な気持になって行った。目の前に赤や青や紫の、非常に鮮かな煙の輪の様なものが、モヤモヤと浮上って、それが、見る見る、血の縞に、あの姉崎夫人の白い肉塊を縦横に彩っていた、むごたらしい血の縞に変って行った。