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あくりょう
悪霊
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1933(昭和8)年11月~1934(昭和9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,980 字 · 67 页
「仮令、僕に犯人の見当がつくとしても、それは云えません。……少し考えさせて下さい。僕の思い違いかも知れません。多分思い違いでしょう。……そうでないとすると、実に恐ろしい事なんだから。……」
彼は青ざめた顔に、ブツブツと汗の玉を浮べて、乾いた脣を舐めながら、途切れ途切れに云うのだ。
「ここでは、云えないのですか」
「エエ、ここでは、どうしても、云えないのです」
「さしさわりが、あるのですか」
「エエ、イヤ、そういう訳でもないのですが、兎も角、もう少し考えさせて下さい。いくらお尋ねになっても、今夜は云えません」
園田氏は、三人の顔を、盗み見る様にしながら、頑強に云い張った。
結局僕達は、記号の秘密を聞出すことが出来ないまま、黒川邸を辞することになった。先生は会員を見送る為に玄関まで出ていらしったが、その心配にやつれたお顔を見ると、誰も殺人事件のことなど話し出す気になれなかった。奥さんは、気分が悪いといって寝んでいるから、失礼するとのことであった。
その帰り途、熊浦氏は程遠からぬ自宅へ、僕は省線の停車場へと別れる時、この奇妙な妖怪学者が、ソッと僕に囁いた一言は、俄かにその意味を捉えることは出来なかったけれど、実に異様な印象を与えた。