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あくりょうものがたり

悪霊物語

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」講談社、1954(昭和29)年9月増刊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,207 字 · 17 页

青空文庫

目の前の皺だらけの小さな老人が、奥底の知れない人物に感じられて来た。

「蝋人形はどうして造るのですか。やはり型にはめるのですか」

「粘土で原型を造ることもありますが、直接実物からとる場合もあるのです」

「実物からとは?」

「食堂のショーウィンドウに並んでいる蝋製の料理見本をごらんになったことがあるでしょう。あれは実物に石膏をぶっかけて、女型をつくることが多いのですよ。そこへ蝋を流しこんで固め、彩色するのです。人間でも同じことです。ただ石膏がたくさんいるだけですよ」

「じゃあ、人間の肌に石膏をぬるのですね」

「そうです。ごらんなさい。ここに見本がありますよ。ホラ、これがわたしの手です。実物と見くらべてごらんなさい」

やっぱり本棚の古本のあいだから、ひらいた人間の手を取り出して、机の上においた。手首のところから切りとった手の平である。老人形師は、自分の手をひらいて、それとならべて机の上にさし出した。小さな皺の一つ一つ、しなびた老人の手の色合が、そのまま出ている。どちらが本物かわからないほどであった。

「これは、わたしの手に石膏をぬって、女型をとったのです。全身をとるのも、りくつは同じですよ」