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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

恐らくあなたも此の経験はあるでしょう。

「一包こぼしてしまってなくなったから」

斯う云ったような口実で初めは巧みに薬局を欺きました。二度目には此の手はききません。

「一週間ばかり旅行に出るから」

こういう理由で又もらいます。そうして自分は一度に二日分若くは二日分半を用いはじめます。否、用いなければ、眠れないのです。

薬局だとて営業です。それにいつもとりつけている患者の家ですから、大抵信用して来ます。しまいには十日分が三日毎になくなっても別段抗議を云っては来ません。こうやって私の一夜に用いる劇薬の量は恐るべき量に達しました。

殊に其の頃になると患者は、常に余分の量を家に貯えておかぬと不安で不安でたまらなくなるのです。私が毎月その薬局に支払う劇薬の金が大きくなるにつれて、私の頭はいよいよ多量の催眠薬を必要とするようになりました。

殊に昨年の秋以来、すえ子の所で暮すようになってからは、私はそちらの方にも備えつける必要を感じはじめました。絶対の信用を薬局からもたれている私は、しまいには二本の小さい罎にその白い劇薬を一杯入れてもらって、一つは家、一本はすえ子の所におきつけて、自分自身、茶さじで三杯、四杯と勝手に呑むようになったのです。