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あくまのでし

悪魔の弟子

浜尾 四郎

「新青年」1929(昭和4)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,202 字 · 51 页

青空文庫

しかし、判事に対しても私は今まで以外の詳しいことがどうして云えましょう。私はただ判事の質問に対し、然りとか否とか答えるより外はなかったのです。

私は自分でも彼女を殺したのか、殺さないのか全くわかりませんでした。

若し私が、外界にいたとしたら、周囲からの刺戟によって必ずやもっと早く凡てを思い出していたでしょう。ところが私は終日監房の中に入れられています。思い出そうにもその機会さえ与えられなかったのでした。

然るに昨日、異常な事件が起りました。

それは妻の露子が、やっと面会を許されて私に会いに来たという事実です。

信じられぬ事のようですが、私はそれまで妻というものの事を全く思い出して居りませんでした。思い出すことすら出来なかったのです。

悄然とした露子に相対した時、私はただ何となく不気味な気もちに襲われていたばかりなのでしたが、突然私の目は、彼女の帯の所に釘づけにされました。

彼女は帯の間に紙を入れています。後から考えれば恐らく彼女は医者に通っていたのでしょうが、其の粉薬の包紙が、帯の間から半分出ているのです。

電光の如く閃いたものがありました。

あれだ、あれだ、あの帯だ! あの紙だ!