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あくまのかお

悪魔の顔

野村 胡堂

「文芸倶楽部」1930(昭和5)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,677 字 · 29 页

青空文庫

「僕に、そんな事はわかりません」

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、君は動物学のことしか解らない人間だっけ」

馨之助は、甥の困り抜いたような顔を見て、如何にも面白そうに笑いこけます。

一座はほんの七八人、外に隣室に退いて、この物騒な話題から遠ざかって居る婦人客を加えて、皆んなで十人もあったでしょうか。石井夫妻の客好きがさせる恒例の晩餐会は、自慢のコックに存分の腕を揮わせた後、別室で軽い西洋酒を啜り乍ら、何時も乍らの不遠慮な話が弾んで居たのです。

「御主人は相変らずウイスキーばかりですか」

「糖尿病には日本酒と葡萄酒が悪いそうで、主治医の酒井博士よりも家内の方がやかましくて飲ませませんよ、ハッハッハハハ」

つまらないところで惚気られて、相手の小西という中老人は少しタジタジとなりましたが、陣を立て直して、

「それはどうも御馳走様で――」

「いやもう、私がうっかり菓子でもつまもうものなら、大変な騒ぎで」

「ハッハッハハハ、これは益々たまらん」

笑の大爆発に、例の陰惨な「人殺しの話」も吹飛ばされてしまいそうです。

「大層お賑やかですこと、何んか、私の悪口を仰しゃったでしょう」