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かなしいごかい
悲しい誤解
豊島 与志雄
「女性改造」1949(昭和24)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,139 字 · 23 页
かすかな笑い声も時々するが、それだって、退屈しきってる笑い方だ。
不思議な会社である。統計だとか、商事だとか、製作だとか、別々の会社になっているが、同じビルの中に雑居していて、大元は一つのものだ。代理販売部までもある。進駐軍関係の委託の仕事が、最近先方に接収されてしまったので、人員はだぶついている。午の休憩時間は、二時頃までだらだらと延びる。それもまた却って、こういうオフィスでは退屈の種だ。
タイプの音が一番先に初まる。窓際に頬杖をついて、そのがちゃがちゃした音を聞いていると、私はふと、千葉に住んでる姉のことを思い出した。いつか訪れた時、姉は忙がしくミシンを踏んでいた。今年から小学校にあがった男の子があるのだ。その姉の癖まで、まざまざと見えてきた。
「敏夫さん、どう、お元気?」
口許に大きな然しかすかな笑みを浮かべて、じっと私の方に眼を注ぐのである。
瞼に浮かぶそういう姉の姿を、今、眺めてみると、しみじみと胸にこたえるものがあって、なにか淋しく頼りないものに思われるのだ。主人は学者であるが、特別な著述もなくて貧しく、これから先、どういう風に暮してゆくのであろうか。