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ひがんについて

悲願に就て

坂口 安吾

――「文芸」の作品批評に関聯して――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,329 字 · 17 页

青空文庫

そういう生活の状態で、まことに正しい魂が安息しようとは思われない。

私はこの数年非常に悪い状態の中に棲んでいた。面倒くさいから泥棒でも働こうかと思った。そうした方がむしろ魂が休息するように思えたりしたのだった。甚だよく喧嘩をした。神経衰弱の傾向もあったのだ。そういう私も、近頃は又奇妙に、そして甚だ不鮮明ないわば直観的な考え方によって、なぜか「抑制」と呼ぶものほど見事なものはないように考えることがあるのだった。だがこの考えは至って上調子なあやふやな代物で、やっぱり私の精一杯の気持といえば、せいぜい頸をくくりたくなったり人を殺したくなったりすることが関の山のところらしい。

私は「カラマーゾフの兄弟」を読んで、かつて読んだどの作品よりも心を打たれた。「アリョーシャ」を創造したドストエフスキーは一生の荊の道の後に於て遂に自らの魂に安息を与え得た唯一の異例の作家であると考えたのだ。私も自分の聖者が描きたい。私の魂の醜悪さに安息を与えてくれる自分の聖者を創りだしたい。それは私の文学の唯一の念願である。が、目下の私は泥棒か人殺しか鼻持のならない助平根性でも描くよりほかに仕様がない。