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ひがんについて

悲願に就て

坂口 安吾

――「文芸」の作品批評に関聯して――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,329 字 · 17 页

青空文庫

いや、それすらも書けそうもないのだ。ただ私自身、泥棒を働きたくなったり、人を殺したくなったり、強姦を企んでみたり、そういうやりきれない日常を送っているにすぎない。諦らめ、抑制、又慾望。全てがなんという負担であろうか。

「文芸」の作品六つ読んだ。

芹沢光治良氏の「小役人の服」、横山属という五十すぎた小役人に課長が洋服地を投げてよこして、どうだね、これで服でも作ったらと言う。横山属はこの上役の言葉を色々に解釈してとにかく課長の気に入るために切りつめた生活の中から洋服を新調したが、課長の方じゃ洋服のことなんかまるっきり忘れていた、というのがこの作品の骨子であろう。これだけの話でも書きようによっては、この洋服が我々の最も深い哀愁の底へふれてくるに違いない。たとえばゴーゴリの「外套」のように。併しこの作品はあまりに概念的である。中尾課長はただの課長の最も世俗的な概念であるし、そのうえ横山属の立場からしか課長の正体をつきとめていないのは作者の勝手な依怙贔屓である。課長にとりいる才子でも主人公の横山属でもみんな常識的ないわば公式の羅列のようで生き生きと読者の魂に訴えてくるものがない。