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おろかないちにち

愚かな一日

豊島 与志雄

「太陽」1920(大正9)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页

青空文庫

」

然し彼は、それに対して何とも言葉を発しなかった。そして一寸沈黙が続いた後、彼の妻は別のことを云い出した。

「瀬川さんは随分でたらめの話がお上手ね。」

「どうしてです?」

「そら、さっき、真面目そうな顔をなすって、馬の脊髄がどうだのこうだのって、すっかり私をかついでおしまいなすったじゃありませんか。」

「いやあれは、実際聞いた通りをお話したんです。ただあれが事実かどうか知りませんが、兎に角忠実な報告であってでたらめではありませんよ。」

「然し実際そういうこともあるかも知れない。」と彼は口を入れた。

「もう奥さんから聞いたのかい。」と瀬川は云った。「僕も変な話だとは思ったが、友人がどうしても本当のことだと云い張るんでね。」

「それでは、」と妻が云った、「あなたもかつがれた方の仲間ね。」

「いや嘘らしい事実も世にはあるものさ。」と彼は結論した。

そして自分の結論に彼は自ら不安になった。此度は妻と瀬川とがそれを信じない方の側になって、彼一人がその説を支持してる形になった。彼の頭にはまた惨めな駄馬の姿が映じた。「その脊髄を……」と考えると、彼は何とも云えぬ胸悪さを感じた。