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おろかないちにち
愚かな一日
豊島 与志雄
「太陽」1920(大正9)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,045 字 · 29 页
然しあせればあせるほど、頭の調子が妙にうわずって、肝心な所で行きづまってしまった。敵の陣形は如何にも横風で、衝くべき虚がいくらもあるように思われたが、実際石を下してみると、つまらない所で蹉跌したりした。そのうちに彼は、自分の中央の大石が、先手の一著で死ぬ形になっているのを見出した。然しその時、右下隅の攻め合いに彼はどうしても手をぬくことが出来なかった。どうにでもなれ! と彼は思った。そして愈々隅の攻め合いに負けてしまっても、中央の大石をそのまま放って、他の所に石を下した。中央の石になるべく触れないようにと瀬川が遠慮してるのが、はっきり分ってきた。その石を取られては、目もあてられない惨敗に終るのは明かだった。もしその石が活きても、彼の方に勝目はなかった。
もう終りに近づいた頃、彼はどうしても中央に石を下さなければならない手順となった。そして黙ったままその大石に一著を補って活とした。瀬川が素知らぬ風を装ってることが、ちらと動いた頬の筋肉で彼に感じられた。
彼の方が十七目負けだった。
「此度は勝負だ。」と彼は云った。
瀬川は戦争を避けよう避けようとするような石の下し方をした。