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あいどくさっかについてのだんぺん
愛読作家についての断片
平林 初之輔
「新青年 第六巻第一〇号」1925(大正14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,173 字 · 5 页
彼にはあらゆる探偵小説のシャルム〔魅力〕があると思いますが、それはまだ十分に発育していないと思います。芸術品として不完全だというのではありません。珠玉のごとき完成味をもったものが沢山あります。ただ完全ではあっても、まだ十分に進化していないというのであります。今日の作家の誰よりもポーがすきだというような批評をききますが、この批評を文字通りに解するならば、私は、その批評家を、一種の個物崇拝のマニアであると判断せざるをえません。
フランスでは、ガストン・ルルーとモーリス・ルブランとが、恐らく同国探偵小説界の双璧でありましょう。私も二人とも愛読します。どちらも変化に富んでいて、機知に満ちたものであります。小説の構成法も、ただ一つのやまをこしらえて、すべての興味を一点に集中するというようなものではなくて、次から次へとおしげもなくやまが連続していて、読者にいきもつかせないといった風のかきかたです。
二三年前、本誌で紹介されたドゥーゼという作家もすきな作家の一人です。この人の作風は、いかにも落ちついています。比較を求めればガボリオの作風にちょっと似ているように思われますが、ガボリオよりも、近代的であり、北国的であります。