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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

ゆき子は、万事が上々吉の喜びで、飛ぶようにして、家へ帰って来た。

「大丈夫! きっとうまく行くことよ。随分かあさまも嬉しがっていらしったわ。有難う、ほんとに。若しうまく行けば、お礼なんか云い足りないわね」

真木の立ったのは、麗らかな四月の第一日であった。爽やかな白っぽい朝日が、やや取散らした八畳の座敷に微風と共に流れ込んだ。ゆき子は、軽装で沓脱石の上に立った真木に頬を差出しながら、

「行っていらっしゃいまし。どっちもおうちへ帰るのね」

と云って笑った。

数刻の後、彼女は家を片づけ戸締りをし、極く必要なものだけを小さいスーツ・ケースに入れて、晴々と希望に満ちて×町へ来たのである。

二

×町での歓待は、何だかゆき子に、漠然と極り悪さを感じさせたほど、深甚なものであった。

七つになる妹のみよ子などは、朝幼稚園に出て行がけに、定って靴を穿きながら、

「ゆきちゃま、今日もいるの?」

と姉に問(たず)ねた。

「ええいることよ、何故?」

ゆき子は、式台の上で蹲(うずくま)り、笑いながら、妹の小さい肩や手の運動を眺める。

「幼稚園から帰るまで帰らないでいらっしゃる?」