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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

そう出来れば、私ほんとに嬉しいわ」

ゆき子は、いそいそとして×町へ出かけて行った。

そして、まだ電気の来ない、夕暮のざわめきの通う小部屋で、母に、自分の世話になりたいことと、夜だけ書生に来て貰いたいこととを頼んだ。

寿賀子は、殆ど予想以上に欣(よろこ)んでそのことに賛成した。

「結構だとも! いつからでもいらっしゃい。――だが、まあよく来る気になったものね」

彼女は、夕闇の中で、裁ち物を片よせながら、嬉しさから罪のない陽気で、娘を揶揄(からか)った。

「それで……どの位行っているの?」

「大抵十日位でしょう。学校が直き始るから、どうせ長くは行っていられないのよ」

「短くてお仕合せ!」

「いやなおかあさま!」

二人は声を合せて笑った。

「とにかく――ほんとにおいで。歓迎してあげるよ。久し振りだものねえ……いつだったか、一晩泊って行ったきりだったろう?」

住居が近所なので、顔を合せる機会はあっても、共に心置きなく寝起する楽しさを久しく取上げられている寿賀子は、気の毒なほど悦んだ。彼女は、思わずゆき子が、溢れ出す愛を感じたほど、暖い心と眼で、迎えてくれたのである。