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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
「太陽」1921(大正10)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页
彼女にとっても、絶望のままそれを見限ってしまうことは、単に、或る一つの長篇作品を、未完成で放擲したというだけの事実ではなかった。それと同時に、創作に対する自信をも投げ捨ててしまわなければならないことだと、感じられていたのである。
「旅行も悪くないだろう勿論。けれども、余り馴染深くない真木の親族のうちに入って行き、たとい、好意によっても、生活を一層断片的なものにするよりは、静に留守をした方が、結局自分のためになるのではあるまいか?」
稀にはすがすがしい独居のうちに、何か新しい気分の転換を見出したら、また、仕事もどうにかなりはしまいかという考が、除け難い根をゆき子の心に下したのである。
けれども、流石に彼女はそれを考えなく軽々と口には出し兼ねた。真木は、彼女が行くと定めたものと思っている。
彼は、彼女ほど、言葉に出して大騒ぎはしないが、それを楽しみに思い、種々空想を描いているだろうことは、ゆき子にも充分察せられた。それを、むざむざと、
「私は参りません」
と云うには、ゆき子は余り良人の心持を知り過ぎていた。彼が、必ず最後には、
「それなら、そうしたら好いだろう」