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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

「それはいけなかったね」

真木は、ゆき子を見、言葉を続けて、何か云いそうにした。が、それを控えて、

「手紙や何かは、皆持って来てくれたでしょうね。じゃあ、これは後のことにしてと、どれ」

彼は立ち上った。

「荷物の始末でもしてしまおう。どうせいつまでも放っておくわけには行かないから」

もう一休みは済んだと云う風に、真木は早速、鞄や箱を、縁側に持ち出した。

「はいこれも。――その襟巻はもういらないんだから、樟脳でも入れて仕舞ってしまう方がいいね。あっちでも使わなかったよ」

後から後から出るものをそれぞれ平常の在場所に戻したり、洗濯物を分けたり、ゆき子は暫く遽しい時を過した。

こういう時、持前の忠実(まめ)や細心を現して、先から先へと事を運んで行くのは、いつも真木の癖なのである。

そうとは知りながら、ゆき子は如何にも詰らない気持がした。五日も会わずにいたのに、何の纏まった話もなく、一息つくと、せかせかとあっちこっちへ動き始める。――まるで、二人のためにどうするではなく、「家」のために、月並な良人と妻との役割を満そうとしているような物足りなさが感じられるのである。