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われにそむく

我に叛く

宮本 百合子

「太陽」1921(大正10)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,414 字 · 59 页

青空文庫

良人の眼を見、ゆき子は、我知らず笑を移された。

真木の質問には、特殊な諷刺が籠っていたのだ。

彼等の家は、屋根に埋った狭い谷を距てて、小石川台の木立を眺める町なかにあった。周囲には沢山の家があり、木戸一つ開ければ隣家の庭まで手が届いた。けれども、その頃、余り遠くない市外に頻々として、強盗や殺傷事件が続出したため、昼間独りきりになるゆき子は気味を悪がり、やかましく真木に強請(せが)んで、つい先頃水口の錠を換えて貰ったりしたばかりなのである。

「到底一人でなんかいられやしませんわ。――×町へ行ったらどうかと思うの……」

「うむ……」

今度、明に躊躇の色が、真木の額に現れた。それを見ると予期したことながら、ゆき子は胸の圧せられる心持がした。

×町というのは、彼女の生家の別名である。緩くり歩いて、四十分とは掛らない同じ区内にあった。その家に、ゆき子は、普通結婚した娘が、いわゆる実家を懐しがるのとは、また一種趣の異った心の絆を持っていたのである。

ただ、その庭の面影や部屋部屋の印象が、やや詠歎的に幼年時代、処女時代を思い出させるばかりではない。一度そこを追想すると、ゆき子の胸には、激しく、心も身をも引っくるめてそこで経験した「快適」