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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
ほんとうは二人だけの孤独に苦しみ始めたのは倉地だけではなかったのか。ある時にはそのさびしい坂道の上下から、立派な馬車や抱え車が続々坂の中段を目ざして集まるのにあう事があった。坂の中段から紅葉館の下に当たる辺に導かれた広い道の奥からは、能楽のはやしの音がゆかしげにもれて来た。二人は能楽堂での能の催しが終わりに近づいているのを知った。同時にそんな事を見たのでその日が日曜日である事にも気がついたくらい二人の生活は世間からかけ離れていた。
こうした楽しい孤独もしかしながら永遠には続き得ない事を、続かしていてはならない事を鋭い葉子の神経は目ざとくさとって行った。ある日倉地が例のように庭に出て土いじりに精を出している間に、葉子は悪事でも働くような心持ちで、つやにいいつけて反古紙を集めた箱を自分の部屋に持って来さして、いつか読みもしないで破ってしまった木村からの手紙を選り出そうとする自分を見いだしていた。いろいろな形に寸断された厚い西洋紙の断片が木村の書いた文句の断片をいくつもいくつも葉子の目にさらし出した。しばらくの間葉子は引きつけられるようにそういう紙片を手当たり次第に手に取り上げて読みふけった。