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あるおんな

或る女

有島 武郎

2(後編)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页

青空文庫

葉子は小刻みに震えながら、言葉だけはしとやかに、

「古藤さんは」

「たまにおたよりをくださいます」

「あなた方も上げるの」

「えゝたまに」

「新聞の事を何かいって来たかい」

「なんにも」

「ここの番地は知らせて上げて」

「いゝえ」

「なぜ」

「おねえ様の御迷惑になりはしないかと思って」

この小娘はもうみんな知っている、と葉子は一種のおそれと警戒とをもって考えた。何事も心得ながら白々しく無邪気を装っているらしいこの妹が敵の間諜のようにも思えた。

「今夜はもうお休み。疲れたでしょう」

葉子は冷然として、灯の下にうつむいてきちんとすわっている妹を尻目にかけた。愛子はしとやかに頭を下げて従順に座を立って行った。

その夜十一時ごろ倉地が下宿のほうから通って来た。裏庭をぐるっと回って、毎夜戸じまりをせずにおく張り出しの六畳の間から上がって来る音が、じれながら鉄びんの湯気を見ている葉子の神経にすぐ通じた。葉子はすぐ立ち上がって猫のように足音を盗みながら急いでそっちに行った。ちょうど敷居を上がろうとしていた倉地は暗い中に葉子の近づく気配を知って、いつものとおり、立ち上がりざまに葉子を抱擁しようとした。