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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
愛子ばかりが葉子の目には見えていた。
「お前は下にいればそれでいい人間なんだよ。おさんどんの仕事もろくろくできはしないくせによけいな所に出しゃばるもんじゃない事よ。……下に行っておいで」
愛子はこうまで姉にたしなめられても、さからうでもなく怒るでもなく、黙ったまま柔順に、多恨な目で姉をじっと見て静々とその座をはずしてしまった。
こんなもつれ合ったいさかいがともすると葉子の家で繰り返されるようになった。ひとりになって気がしずまると葉子は心の底から自分の狂暴な振る舞いを悔いた。そして気を取り直したつもりでどこまでも愛子をいたわってやろうとした。愛子に愛情を見せるためには義理にも貞世につらく当たるのが当然だと思った。そして愛子の見ている前で、愛するものが愛する者を憎んだ時ばかりに見せる残虐な呵責を貞世に与えたりした。葉子はそれが理不尽きわまる事だとは知っていながら、そう偏頗に傾いて来る自分の心持ちをどうする事もできなかった。それのみならず葉子には自分の鬱憤をもらすための対象がぜひ一つ必要になって来た。人でなければ動物、動物でなければ草木、草木でなければ自分自身に何かなしに傷害を与えていなければ気が休まなくなった。