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あるおんな
或る女
有島 武郎
2(後編)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,655 字 · 406 页
膝の上に乗せた土産のおもちゃや小さな帽子などをやきもきしながらひねり回したり、膝掛けの厚い地をぎゅっと握り締めたりして、はやる心を押ししずめようとしてみるけれどもそれをどうする事もできなかった。車がようやく池の端に出ると葉子は右、左、と細い道筋の角々でさしずした。そして岩崎の屋敷裏にあたる小さな横町の曲がりかどで車を乗り捨てた。
一か月の間来ないだけなのだけれども、葉子にはそれが一年にも二年にも思われたので、その界隈が少しも変化しないで元のとおりなのがかえって不思議なようだった。じめじめした小溝に沿うて根ぎわの腐れた黒板塀の立ってる小さな寺の境内を突っ切って裏に回ると、寺の貸し地面にぽっつり立った一戸建ての小家が乳母の住む所だ。没義道に頭を切り取られた高野槇が二本旧の姿で台所前に立っている、その二本に干し竿を渡して小さな襦袢や、まる洗いにした胴着が暖かい日の光を受けてぶら下がっているのを見ると葉子はもうたまらなくなった。涙がぽろぽろとたわいもなく流れ落ちた。家の中では定子の声がしなかった。葉子は気を落ち着けるために案内を求めずに入り口に立ったまま、そっと垣根から庭をのぞいて見ると、日あたりのいい縁側に定子がたった一人、葉子にはしごき帯を長く結んだ後ろ姿を見せて、一心不乱にせっせと少しばかりのこわれおもちゃ